水稲栽培とは
- おいしいお米といえば「新潟県のコシヒカリ」が連想されます。このコシヒカリは1956年に農林登録され、「越の国に光輝く米」という願いが込められて命名されました。米の食味ランキングで好成績を残すコシヒカリですが、おいしいお米として全国に流通するまでに様々な苦難が待ち受けています。水稲栽培において問題になるのが「雑草」「病気」「害虫」この3点でしっかりとした管理が必要になります。ここでは米どころ新潟から全国の水稲農家のみなさまに向けて色々な情報を発信する場になれるよう、そしておいしいお米づくりの一環としてご活用いただけたら幸いです。
農作業カレンダー(新潟県下越地方の例)
3月~4月
耕起、整地
- 耕深15cmを目標に乾いた状態で耕起する。
- 代かきは練りすぎないように注意し、高低差±3~4cm以内の均平に仕上げる。
基肥施肥
- 高品質/良食味米生産のためには、土壌条件に合った施肥量で適正な生育量を確保する。
- 基肥窒素は穂首分化期までは残らないようにする。砂状土壌では緩効的な肥料を混用する。
苗の種類と育苗準備および種子予措
- 苗の種類毎に特性を把握し、生育目標に合った健苗を育成する。
- 種子予措を徹底し、育苗期の体系防除と併せて種子伝染病害の発生を防止する。
稚苗育苗
- 育苗期間18日程度で2.0葉苗を育苗する。
- 出穂後の高温登熟を回避するため、4月20~25日播種、5月10~15日移植を目標とする。
プール育苗
- 潅水作業や温度管理が簡略できるため、大幅に労働時間を短縮することができる。
- 気温が高いと水温が上昇して徒長しやすいので、換気に十分留意する。
育苗期の障害と対策
- 近年は育苗期間の異常高温により白化苗やヤケ苗が発生しやすいので、温度管理に十分留意する。
5月
田植え(移植)
- 登熟初期の過高温による品質低下を避け、適温で登熟する出穂期をむかえるため、移植時期は平坦地域で5月10日頃、中山間地域で5月15日頃とする。
- 過剰生育を防止し、適正な生育量を確保するための移植密度を設定する。
初中期の水管理
- 田植直後はやや深水として、保温的水管理とする。
- 活着後は浅水として、水温の上昇を図り分げつの発生を促し、良質茎の早期確保に努める。
6月
溝切り・中干しによる生育調節
- 溝切り・中干しで生育を調節し、稲体の健全化で登熟を良好にする。
- 溝切りは目標穂数の80%確保で直ちに実施し、梅雨入り前に中干しを開始する。
カドミウム吸収抑制対策に基づく水管理
- カドミウムを吸収・蓄積する時期に湛水状態を保つことにより、米のカドミウム含有量を低減させることが可能である。
7月
後期栄養(穂肥)
- 良好な食味を確保するための玄米タンパク質含有率の目標値は、コシヒカリは6.0%、こしいぶきは6.2%(6.0~6.4%)である。
- 適正生育量を遵守して目標とする稲体を作り、適正な穂肥施用により栄養状態を高く維持する。
生育診断と適正穂肥
- 生育診断に基づく穂肥施用は品質・食味を良好にし、収量を安定させる。
- 生育指標の活用と穂肥施用のめやすで適正穂肥を実施する。
- 穂肥施用時期は必ず幼穂形成期を確認して決定する。コシヒカリは出穂前18日と10日、こしいぶきは出穂23日前と14日前に分施する。
倒伏軽減
- 適期の溝切り・中干しで適正生育量を確保し、間断潅水で根を健全にする。
- 適期適量穂肥で栄養状態を高め、下位節間及び上位葉身の伸長を抑え倒伏軽減を図る。
8月
落水
- 出穂後は間断潅水を実施し、落水時期は出穂後25日以降とする。
9月
稲刈り
- 早生品種では出穂後高温で推移し、基部未熟粒や胴割粒が発生しやすくなっており、被害粒を防止するた め、収穫開始は出穂後積算気温 975℃より 50℃(2日程度)早める。
- コシヒカリは高温登熟年の条件は下回っているが、平年より収穫適期は早まっている。 刈遅れは胴割れ粒の発生につながるため、籾の黄化率を確認し、適期収穫を行う。
- 黄化籾の割合が85~90%くらいになった頃が収穫適期。
- 収穫前に、ほ場内のクサネムを引き抜き、種子の混入を防ぐ。
- 墨黒穂病や稲こうじ病の発病がみられるほ場では汚損を防ぐため、稲体が十分乾燥している状態で、無発病のほ場とは別に収穫すること。
乾燥
- 高い送風温度での乾燥は食味を低下させるので、籾の初期水分が高いほど低い温度で乾燥させ、仕上げ水分は15%とし食味低下を防ぐ。
- フェーン現象によりほ場内の籾水分が急激に低下した場合は、胴割粒が多発する危険があるので、できるだけ早く収穫を行う。
- 乾燥速度を毎時0.5%以下になるように送風温度を低くし、胴割れを防ぎ、水分ムラが大きい時は張り込み後に軽めに通風循環し、夜間まで半日程度貯留して、水分ムラを解消させてから加熱乾燥すること。
調整
- ふるい目は1.85mm 以上のふるい目を使用し、適正流量で調製する。
- 墨黒穂病や稲こうじ病の発病が見られるほ場の籾は、肌ズレを防ぐため、乾燥後十分放冷してから、ロール間隔0.8~1.2mm を基準に脱ぷ率が80~85%になるように調製する。 また、二番口の籾は出荷用米と別に籾摺りをすること。(特にわたぼうしは注意が必要)
病害虫・雑草防除
病害虫防除
- 発生予察情報を活用しながら、発生実態をよく調査し、「農作物病害虫雑草防除指針」や各地の「防除のめやす」に照らして、発生実態に応じた適正な防除を実施する。
- 散布農薬の水田系外への流出を防止するため、散布前後における水管理を徹底する。
雑草防除
- 除草剤の使用にあたっては「農作物病害虫雑草防除指針」に基づき正しく使用し、製品のラベルに記載されている使用基準や使用上の注意事項、使用方法等を遵守する。
- 除草剤の作用特性をよく理解し、作物、人畜及び魚介類に対する安全性、除草効果、経済性、環境への影響などを考慮し、使用条件に最も適合した剤を選定する。
土づくり
有機物及び土づくり資材の施用
- 稲わらの秋施用は、堆肥施用と同等の「土づくり」効果が期待できる。
- すき込みの時期は稲わらの腐熟の促進や温室効果ガスであるメタンの発生の抑制を図るため、遅くとも10月中旬までに完了し、すき込みの耕深は作業能率や腐熟促進等を考慮して、5~10cmの浅うちとする。
- 有機物を施用したほ場は保水力や、窒素供給力が増し、干ばつや高温登熟条件下での稲の生育や登熟を助ける。
- 土づくりは異常気象に対する稲体の抵抗性を高める。
深耕と排水・透水性の改良
- 水稲根の80%以上は作土層に分布する。作土層を十分確保するため、耕深は15cmを目標とする。
- 用排水施設の改善や暗渠排水・心土破砕などにより、地下水位の低下や透水性を改良して、水稲根の活力を高める。
水田の土壌改良目標
- 土壌改良は土壌診断と改良目標に基づいて計画的に実施する。
カドミウム吸収抑制対策のための土づくり資材の施用
- 玄米カドミウム含量が0.2ppm以上となる危険性のある水田では、水管理対策を徹底するとともに、熔リン等のアルカリ性の土づくり資材を施用し土壌pHを6.5~7とする。
- 土づくり資材の多量施用により土壌窒素発現量が高まるので、基肥窒素施肥量を減らす必要がある。
基盤整備及び転作等跡の水稲栽培
基盤整備跡の水稲栽培
- 基盤整備跡の水稲の生育は、地力窒素が乾土効果などにより過剰に発現し、水稲の生育が過剰となる場合がある。また切土部では不足気味、盛土部では過剰気味となる。
- 窒素肥料の増減は、土壌診断により一筆中の地力の分布を把握して決める。
- 切土部では、ケイ酸・リン酸・有機物の補給と窒素肥料の増肥、盛土部では窒素肥料の減肥が必要となる。
- 透水性の変化に対する対策、田面の均平、酸性障害が生じた場合の対策が必要になる場合がある。
転作等跡の水稲栽培
- 転作等跡水田では、地力を把握し、適正品種を選び、適量の基肥を施用する。
- 漏水防止のため、丁寧な代かきを行う。
- 水稲は初期から生育旺盛になりやすいので、倒伏や病害虫の多発を招かないよう、やや疎植とし、早め・強めの中干しにより生育の健全化を図る。
気象災害対策
気象災害対策
- 高品質・食味良米の安定生産には、品種構成の適正化、適切な水管理、土づくり等の基本技術を確実に行い、普段から気象変動に強い稲づくりを心がける。
- 気象災害にあった場合は、被害を最小限にとどめるために、直ちに適切な栽培管理を行う。
直播栽培指針
直播栽培指針
- コシヒカリ直播栽培の導入によって、移植コシヒカリ栽培との作期分散を図る。
- 育苗作業の省力によって、大規模稲作農家の規模拡大や園芸等複合経営での作業競合を回避する。
- 県内では、湛水土中条播が主体である。ほ場条件、労力や機械の状況により最適な様式を選定する。
代かき土中直播
- コシヒカリ直播栽培の導入によって、移植コシヒカリ栽培との作期分散を図る。
- 高品質コシヒカリの生産技術として、倒伏をできるだけ回避するため、播種量を少なくした代かき土中直播栽培とする。
- 発芽苗立ちの安定のため、播種後から出芽まで落水管理(田干し)をする。
播種後出芽までの管理
- 落水出芽の場合、表面水を均一に排除し、地表面全体に小ヒビが入る程度まで干す。
苗立ち不良時の対応
- 播種深さが不適正であったり、鳥害を受けたりして、苗立ちが不良になった場合の対応も、あらかじめ準備しておく。
生育調節
- 葉いもちの予防剤散布を予定している場合は、計画的に行い、中干し開始が遅れないよう注意する。
雑草防除
- 除草剤の使用に際しては、イネの葉齢とともにヒエに葉齢に注意して、散布適期を逃さないことが重要である。
病害虫防除
- 移植栽培に準じるが、直播栽培により生育ステージの違い等から注意する。
鳥害回避
- 鳥害に対しては、状況に応じた速やかな水管理などの対応が必要である。
収穫・乾燥・調整
- 移植栽培に準ずるが、成熟期の判定にはほ場全体を観察することが重要である。
生育及び収量目標
- 直播栽培は気象条件による生育の変動が大きいと考えられるので、品質・食味を安定して確保するためには、慎重な栽培が必要である。
代かき湛水散播
- 代かき湛水散播の特徴・・・湛水散播は代かき後の水田に酸素発生剤をコーティングした種子籾を動力散布機、産業用無人ヘリなどによって散播栽培方法である。この栽培方法には次のような特徴がある。
- 長所
- 乾田直播栽培に比べて湛水による保温効果が期待でき、初期生育が良好である。
- 播種深が浅い(播種床下5mm程度)ため、酸素供給能が高く出芽・苗立率が高い。
- 散播であるため、播種作業能率が極めて高い。
- 播種機など新しい機械の導入が不要で、低コスト化がねらえる。
- 短所
- 播種深が浅いため株もとが浅く倒伏に弱いので、栽培品種が強稈品種に限定される。
- 播種床面の状態(土壌表面の硬・軟など)により出芽や苗立ちが不安定になりやすい。
- 生育初期の鳥害(カモ・カラス・スズメなど)を受けやすい。
- 過剰生育になりやすく、有効茎歩合が低下しやすい。
乾田直播
- 直播栽培によって育苗にかかる労力を軽減し、作期分散で刈取作業ピークを平準化。
- 代かき、コーティング作業等が不要で湛水直播よりもメリットが大きい。
- 乾田、漏水が少ない、用排水の便が良いほ場を選定する。